先代の父である創業者が1975年にスタートさせた権之助坂にある一軒のとんかつ屋、大きな宝と書いて「とんかつ大宝」。
こんなに長く営業出来たのも応援してくださった皆様のおかげです。
お客様、お取引先様、そしてお店のパートナー、誰が欠けても今のとんかつ大宝はなかったと思います。
「お客さんに喜ばれる“仕事”をする」という先代の創業時の理念のもと形だけを受け継ぐのではなく、道を極めようとして注がれた先代の心を生かす。
これが伝統ではないでしょうか。
私は生まれて育っていくなか母の背中におんぶされホールに、父には仕事終わりに油だらけの手で私の頬っぺたをスリスリ、身の回りにはパン粉の香ばしさ、ラードの芳醇な香り、たくさんのお客様に囲まれた環境で育ってきています。また権之助坂商店街の風情や雰囲気を肌で感じてきました。
物心ついたらやっていた、というのは何事においても有利だと思っています。
寿司しかり、とんかつしかり、武道全般しかり・・・
とんかつの揚げ方は、素材の大きさ、赤身や脂身の状態や、その日の気温や湿度によって揚げ時間のタイミングが全く異なります。父はいつもいつも言っていました。「カツのご機嫌を伺いなら揚げな、母さんと同じでいつも違うから」と。
ソースに関しても明確なレシピが存在せず、作り方は幼いころから横で手伝いをしながら肌で覚えた何十年と続く感覚のソース。分量は計量カップや秤を使わず家族みんなが長いこと使っていたお茶碗が計量カップ代わり。
所謂、口伝によって受け継がれた秘伝のソースをご提供していました。
味噌汁は母の強いこだわりで、これでもか!というほど鰹の出汁を効かせた熱々でだす味噌汁。
この様なかたちで先代から受け継がれた伝統の職人技を提供しておりました。
先代の父は2020年に永眠いたしましたが、厳しかった父から生前初めて「揚げるの上手くなったじゃないか。」とニコっと一言照れくさそうに言われたのを今でも思い出します。
あと数年で創業50周年を迎える とんかつ大宝でしたが、諸般の事情により経営には全く関与出来なくなってしまいました。
※現在は新しい経営者の方が手腕をふるまっておられると思います。
父との大切な1枚。
現在は、父が開業した2店舗目のとんかつ屋、”とんかつ和紀”にて父の心と技術を受け継ぎ、とんかつ大宝創業時と変わらぬ味で提供しております。
是非、何も変わらない伝統のゆかしいとんかつを食べにいらして下さい。
とんかつ和紀